予測の上では問題がなくても、現金不足に陥ってしまう会社は存在します。現金に関する予測に失敗してしまう理由を理解し、現金収支予測に関する自社の業務の点検に活かして下さい。
この記事の前編において、
・業績が良くても(黒字でも)、会社は潰れる事がある
という事実を紹介させて頂きました。
そして、その理由として経営者が押さえておくべき2つの理由のうち、一点目の内容を紹介させて頂きました。
この後編では、残ったもう一点の理由について紹介します。
現金収支予測を黒字(プラス)にするという基本
最初にお断りしておきますが、この記事で取り上げる内容は面白みのある内容ではありません。なぜならば、「黒字でも会社が潰れる理由」の二点目は、
・(期末だけでなく)期中においても、現金が一度でも不足してはいけない
という理由であり、もう少し具体的に言い替えると、
・毎日毎日(場合によっては、毎時毎時)、現金が不足してはいけない
という、「当たり前の事を、当たり前にしなければならない」という事に過ぎないからです。
しかし、現金の重要性を解っていても、この点については見落としている(正確に理解し、それを防ぐ為の対策が出来ていない)会社(人)は多いのです。勿論、そうした状態が多発するのには、理由があります。
そして、その結果として、予測の上では現金は十分に足りているはずなのに、ある日、「現金が不足する」という事態が発生する事があるのです。ですから、この理由についても軽視することなく、紹介したいと思います。
現金収支予測が不十分な水準である可能性
実は、経理について勉強した事のある人間が経営に携わっている場合や、外部から事業計画についてチェックを受けるような機会がある会社の場合の多くでは、「現金の不足」という問題点については、一通りのチェックが行われています。
しかし、こうしたチェックでは、
・ある時点で(月末や期末の時点など)、現金が足りるか
という確認しか出来ていないケースが珍しくありません。
ある意味、それは当然と言えるでしょう。計画を作り、問題がないかチェックする際には、計画の一定期間が終わった段階での数字を検討します。その中で現金について考えるので、どうしても、そのような確認になってしまうのです。
現金収支予測している会社でも期中に現金が不足してしまう理由
しかし、もうポイントはお解りでしょうが、「現金が足りているのか」、それとも、「現金が足りないのか」という分岐点は、毎日(もっと厳しく言えば、毎時、毎分、毎秒)来ます。
現金不足を防ぐ為には、こうした点を十分に理解・意識して、リスク管理が行われなければならないのです。もし、そうした対策が十分に行われていなければ、会社は予想外の現金不足に陥る可能性があるのです。
特に、先ほど挙げたような「現金の不足」に関するチェックが終わっている会社(人)においては、「現金の不足についてはシミュレーション済なので、自社は問題ない」と思い込んでしまう事があります。
そして、現金が不足するという点についてのリスク管理が甘くなってしまう会社が少なくありません。
現金不足を防ぐ為の現金収支予測の作業とは
では、この問題を防ぐ為には、具体的に、どのような作業が求められるのでしょうか。
まず、期中(年度末や月末までの間の期間)の日々の現金の残高推移の予測は、
・スタート時点の現金の残高から、
・支払う現金を控除(マイナス)し、
・入金される現金を加算(プラス)する、
というシミュレーションを、
・全期間において連続的に行う
という作業を行う事によって求める事が出来ます。
そして、このような作業によって予測された日々の現金の残高が、常にプラスである(ゼロを割り込まない)事が確認出来れば良い事になります。
現金不足を防ぐ為の現金収支予測の作業を行う頻度
ただし、この作業は、定期的に行う必要があります。
どの程度の頻度で行うべきなのかは会社や事業の状況によって異なりますが、予測が変動してリスクが発生する前には手が打てるような頻度では、見直しを行うべきです。年度末などに一度行って終わりに出来るものではありません。
さて、ここまで、現金不足を防ぐ為に必要となる作業について読まれて、どのようにお感じでしょうか。
面倒そうではあるものの、一見、簡単そうな作業に感じられたのではないでしょうか。しかし、ここに落とし穴があるのです。
現金収支予測の難易度が高い理由
非常に嫌らしい事なのですが、「現金の支払額が予想よりも減る(払わなくて済む)」事は、ほとんどあり得ませんが、「現金の入金額が予想よりも減る」という事は、それなりの頻度で発生するのです。
現金入金の中心となる「売上代金の回収」が予想通り出来ない理由は、
・業績が予定通り推移しなかった(売上が予定よりも低かったので、現金回収も減った)
・商売上のトラブルから相手が支払を一部保留した
・相手が経営難に陥って、支払いをしてくれない
など、様々なものがあります。
予算通りの売上が出来なかった事も含めれば、予定通りの現金回収が出来る事の方が珍しいとすら言えるかもしれません。
その結果、現金収支の予測は狂いがちです。
高いレベルでの現金収支予測のすすめ
こういった理由から、現金収支予測を軽視していると、「全く問題ないと思っていたにも関わらず、期中の現金が不足した」という事態が発生する事はあり得るのです。
ただし、こうした事態を防ぐ為には、「現金収支予測」を高いレベルで行えば良いだけの事です。それさえ出来ていれば、少なくとも、「予想できずに会社が潰れた」という事態は防げるでしょう。
問題は、その「当たり前の事」を当たり前に出来るかどうか、だけです。
なお、こうした問題への対策の為の作業は、「資金繰り」と呼ばれています。そして、経理部門を持つ多くの会社で、この業務自体は間違いなく行われています。問題は、その業務の水準については、かなりの「ばらつきがある」という事です。
この為、「自社の経理部門が、そういった作業を行っている」という事を確認するだけでは不十分です。経営者は、「十分な水準で作業が行えているかどうか」という所までを確認すべきである事には留意して下さい。
事業が順調でも会社が潰れる理由まとめ
以上、前編で紹介した一点目と合わせ、これらの原因が、「業績が良くても会社が潰れる事がある理由」です。
前編で紹介した、「黒字でも会社が潰れる理由」の一点目は、「業績の数字ばかりを意識して、現金について意識出来ていない場合に発生する事故」でした。
これに対して、この二点目は、「現金についての管理が不十分であり、期中の予測が不十分であった場合に発生する事故」である、と言えるでしょう。
業績が順調でも会社を潰さない為の対策は必要です
会社を意図せぬ悲劇から救う為には、こうした点について理解した上で、問題を発生させない為の対策を講じておかなければなりません。
そして、前編でも書かせて頂いた通り、こうした問題については、業績対策とは別個の問題として検討し、対策を用意する必要がある事を覚えておいて頂きたいと思います。
もし、自社の体制が十分に検討されていないと感じられた場合には、是非、この機会に見直しを行い、自社にとって十分な水準でのリスク管理を導入して頂きたいと思います。
この連載では、関連記事にて、こうした問題への対策についても紹介させて頂いております。宜しければ、それらの記事もご一読下さい。
なお、当社では、様々なビジネスコンサルティングに関するサービスの一環として、こうした「事業継続のリスクに関する分析や対策」についても支援させて頂いております。