自社が対応する顧客ニーズの種類を増やす事で、売上アップを試みる事は可能です。しかし、売上アップを本当に実現させる為には、この手法が抱えるリスクについての理解も不可欠です。
売上を改善する為に、「自社が対応する顧客ニーズの種類を増やす」という方法が検討される事があります。
この方法は、多くの会社が試みる売上対策の背後にある考え方です。この為、この考え方は非常に一般的であるとは言えます。しかし、この方法によって売上アップを実現させる為には、克服しなければならない点がいくつかあります。
この記事では、こうした点について紹介します。
現在の売上が取り込めていないニーズを追う
改めて紹介しますが、現在の売上に満足出来なくなると、多くの人が考える売上改善の手法として、
・自社が対応する顧客ニーズを増やす
というものがあります。
例えば、お祭りに出店しているラーメン店が満たせているニーズは、通常、「ラーメンを食べたい」というものです。少し広く考えても、せいぜい、「食事を求める」というニーズまででしょう。
では、このラーメン店は、お祭りに来ている人の食事のニーズを100%満たす以上の売上は狙えないのでしょうか。実は、お店の対応キャパシティ(席数、調理の問題など)に余裕があれば、方法はあります。
例えば、ラーメンに加えて、「甘味(デザート)を出す」といった方法があります。そうすれば、食事をする気はない客であっても、自店舗の顧客として取り込む事が出来る可能性があります。これは、新しく、「甘味を求めるニーズ」というものに対応した為です。
このような方法を用いれば、従来、これ以上の売上アップが難しいと思われていたケースであっても、無限に近く売上を増やしていく事が理論的には可能となります。
自社が獲得出来る可能性のあるニーズの例
先ほどは、ラーメンを出す店において、「甘味を追加で出す」という例を紹介しました。
このような、自社が扱っている商品に近いところで、「現在は満たせていないニーズを満たせるように、商品の幅を広げる」という考え方は、比較的、検討が容易でしょう。
しかし、こうした解りやすい例以外でも、同様の考え方は可能です。
少しだけ、追加の例を紹介しましょう。
例えば、先ほどのラーメン店において、提供メニューを増やす以外の切り口としては、
・写真写りの良い何かをアピールする事で、注目される写真を発信したい人のニーズに応える
・お土産品を用意することで、食事をする予定がない人にも物品の販売が出来る可能性を模索する
などが考えられるでしょう。
これらは、「お腹を膨らせる為の飲食物」というニーズについて考えているだけでは、発見出来ないニーズです。しかし、こうしたニーズを見つけ、また、対応する事が出来れば、従来とは全く異なる売上を獲得出来る可能性が見えてきます。
自社が獲得出来る可能性のあるニーズの探し方
では、こうしたニーズはどのようにして見つければ良いのでしょうか。
真っ先に考えられるのは、競合が対応出来ていて、自社が対応出来ていないニーズを見つける事です。なお、その際には、競合の意味は広めに解釈した方が良いでしょう。
お祭りの中でラーメン店を開いているのであれば、同じラーメンを出している飲食店は競合店として既に認識していることでしょう。
そうした店と自店舗を比較することで、味や値段といった点については比較が出来るでしょうし、それは行うべきです。しかし、それだけではなく、もっと広い視野での分析も行うべきです。
例えばですが、競合店では、自店舗が対応出来ていない「子供連れでも安心して入れるお店」といったニーズに応える為の店作りやメニュー作りをしているかもしれません。
こうした事は、単に商品の比較という視点だけで自店舗とその店を比較していた場合には気付き辛いでしょう。しかし、「その店が対応出来ているニーズはなにか」という視点を持って分析するようになると、見つけやすくなることでしょう。
また、ラーメン店だけではなく、飲食店全般に比較対象を広げると、「電源が使えて、食事中に充電が出来る店が良い」「団体でも同じテーブルで食事出来る店が良い」といった、これまで考えもしなかったニーズが見えてくるかもしれません。
更に、飲食店以外にまで比較を広げると、土産物屋で「今日の記念となるものを何か買いたい」といったニーズが見えてくるかもしれません。
その他、発売されている雑誌やテレビなどに目を向けると、売上を追加で獲得する為の発見があるかもしれません。
こうした様々な分析や学習が、新しいニーズを見つける事に繋がります。
複数のニーズを追って売上アップを狙う場合の落とし穴
ここまで読まれて、「では、売上の為には、対応するニーズを次々と増やしていけば良いのだな」と単純に思われる方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、こうした手法をこれまでお勧めしていないのには理由があります。
それは、この対策の実行の難易度が高い為です。
他の対策と同様に、対策を実行する為のコストの問題もあります。しかし、それ以上に、この手法による対策で気をつけないといけないのは、
・対応するニーズを増やすと、現在の強みが弱まる事が多い
という点です。
例えば、ラーメンだけを出している店で、売上アップを狙って、アルコール飲料を出して、「アルコールを飲みたい」というニーズに応えたとしましょう。
店側としては、単純に、これまでのラーメンの売上に、アルコール飲料の売上が加わってメ
リットしかないと考えてしまうかもしれません。
しかし、実際に実行してみると、アルコール飲料を提供する事で、
・酔っ払いがいる店には行きたくないという客が来なくなる
という現象が発生する事があります。これは、「酔っ払いがいない店が良い」というニーズに応えられなくなった為です。
そのほか、同様に、
・客の滞在時間が長くなり、客数が減る(「多くの客をさばける」という強みが消える)
・酔っ払った客の対応に店員が追われる(「少人数で店をまわせる」という強みが消える)
といったデメリットが発生する事もあります。
アルコール飲料ではなく、甘味を出す場合でも同じようなデメリットは発生します。客の滞在時間が延びるといった同様の問題のほか、
・ラーメンの臭いがしているところで、甘味は食べたくない
・甘味をのんびり食べている横では、ラーメンは食べたくない
といった感想を客が持つ事は珍しくなく、「甘味が食べたいというニーズ」も「ラーメンを食べたい」というニーズも、その両方に応えられなくなるという結果すら発生してしまうのです。
このように、複数のニーズを同時に追うのは難しいものなのです。ですから、こうした手法を検討する事になった場合には、十分に注意するようにして下さい。
売上対策を進めていく上での留意点
この連載で紹介してきた考え方を理解して頂ければ、売上対策の検討を着実に進めていく事は出来るでしょう。
ただし、そうした対応を実際に進めていく上では、試行錯誤をしながら結果を出していく作業が必要となります。
もし、そうした作業を自社だけで行っていくのが難しいようであれば、外部の専門家を入れて対策を進めて行く事も検討して下さい。
試行錯誤が必要である事は変わりませんが、より適切な条件下での試行錯誤を行う事で、より早く、より費用をかけずに結果を出す事には繋がるでしょう。
この連載では、関連記事にて、売上改善の為の分析をより適切に行う為の情報についても紹介させて頂いております。宜しければ、それらの記事もご一読下さい。
なお、当社では、様々なビジネスコンサルティングに関するサービスの一環として、こうした「売上改善の為の分析」についても支援させて頂いております。