若手社員が会社に定着しない。人材の奪い合いに勝利出来る見込みのない会社が選ぶ事になった、「問題を抜本的に解決させる」方策とは。そして、それを見つける為に行われた「コア業務の見極め」とは。
この記事では、経営支援の事例を取り上げ、経営や事業運営に関して問題を抱えた状態をどのように変化させる事が可能なのかについて紹介します。事業に携わる方で、問題が解決した先が見えずに悩まれている方に参考にして頂ければ幸いです。
支援前の状態
- 若者が関心を持ちづらい商品の販売を事業としており、若い社員の確保に苦労している。採用自体が難しい上、採用出来ても直ぐに辞めてしまう。
- しかし、若い社員の増員を求める現場の声は強く、経営者を悩ませていた。
- 経営者としては、待遇の改善を行い、それをアピールする事で、少しでも若い社員の確保につなげたいと考えている。
- 事業内容は、高齢者向け生活支援商品の販売。
支援内容と支援後の状態
①
この会社の若手社員は、年輩の社員数名とチームを組み、顧客を担当していました。
チーム内では役割分担が出来ており、顧客への販売業務は、主に年輩の社員が担当していました。そして、若手社員には、商品の運搬や細かい事務作業などの仕事が割り当てられていました。
この分担は合理的なようですが、若手社員の退職理由にも繋がっていました。扱っている商品に興味を持ちづらい職場であった上に、「年の離れた社員に雑用ばかり押しつけられる職場」と若手社員は感じていたようです。
また、チームメンバーの殆どは、年齢が高めの社員ばかりである事も解りました。
これは、若手社員が定着しなかった結果、中間の年齢層の社員が欠けてしまった結果でしたが、若手社員にとって「相談相手となる近い世代がいない」という問題も引き起こしていました。
②
若手社員が置かれた状況が確認出来た所で、若手社員の待遇を改善する検討に入りました。幸い、若手社員を大切に思う気持ちは全社的なものであった為、若手社員の待遇のみを重点的に改善する施策を導入する事も出来そうでした。
ただし、表面的な待遇の改善だけでは限界があるようにも感じました。
この為、「若手社員にとって魅力がない職場」という現状を前提とするのではなく、「若手社員が仕事を面白く感じるようにする事は出来ないのか」という点についても検討を始めました。
しかし、この検討については、途中で挫折する事になります。
③
分析を続けた結果、この会社の販売における強みは、販売している商品に関する「自分自身での利用体験」といった所から来ている事が解ったのです。そして、それらは、販売している社員が高年齢だからこそ出来るものでした。
そして、この事実は、若手社員が「この会社の販売活動において、強みを発揮する事が難しい」という事を示していました。
勿論、この会社の販売スタイルを変えて、従来とは違った強みによって販売を行う事や、販売以外の重要業務で若者を活用したりする事も検討はしました。しかし、実現は現実的ではありませんでした。
その後も検討を続け、最終的に、経営者に対しては「2つの進む道(選択肢)」を提案する事になりました。
④
一つ目の道は、経営者が想定していた通りの「若手社員の待遇を改善する」という道です。ただし、「この会社の体力で実施出来る改善策では、将来は楽観出来ない」という説明も付け加える事になりました。
実は、この会社が所属する業界では、今後も厳しい人材争奪が続く事が予想されました。この為、この会社が待遇を引き上げても、その改善は一時的なもので、待遇の引き上げを継続的に行わない限り、人材が引き抜かれる可能性が十分に予測されたのです。
そして、もう一つの道は、「若年層の採用を諦める」というものでした。
実は、この会社の業務を慎重に分析した所、この会社が強みとしているのは、「社員による販売力」のみでした。そして、前述の通り、この業務は高年齢の社員によって維持されていました。若年層の社員は、販売業務以外の部分で必要とされているに過ぎませんでした。
すなわち、「若手社員を必要とする業務」は、「必要ではあるが、会社の強みとは関係がない業務」であった訳です。そして、更に分析を進めた結果、効率は落ちるものの、それらの業務は、「他社に任せる事が出来る業務」である事が解ったのです。
⑤
この提案に、経営者は驚かれました。
「若手社員は業務を行う上で必須」と思い込まれていたので、そのような道がある事は想定外だったのです。しかし、説明を聞いて理解された後は、デメリットも理解された上で、この道を選ばれました。
決断の理由は、上昇し続けるであろう「若手社員の為のコスト」で悩み続けるくらいであれば、「自社の強みに繋がる他の事の為に資金を使いたい」という判断でした。
その後、この会社は、いくつかの会社と業務委託契約を結ぶことで、「若手社員がいないと困る業務」については、外部の会社に任せました。すなわち、アウトソースの活用です。同時に、販売の現場は、高年齢の社員のみで運営出来るように業務を見直しました。
⑥
こうした業務の見直しによって、この会社の長年の課題であった、「若手社員の確保」という問題は、良い意味で「消滅」しました。結果、現場の効率こそ下がりましたが、若手社員の不在によって業務が滞る心配からは解放されました。
また、「若年層の採用」を取りやめた事で、この会社の採用は「高年齢のみを採用する」という方針に切り替わりました。幸い、高年齢を対象とした求人が少ない事もあり、今後も販売の強みを維持する為の人材採用は問題なく出来そうです。
こうして、この会社は事業継続の不安を払拭させる事に成功したのです。
なお、会社に残っていた若手社員については、新しく生まれた「外部の業務委託先の管理」という仕事に移って貰いました。この新しく生まれた仕事は魅力的であったようで、若手社員の退職も止まりそうです。これは、嬉しい誤算でした。
当社から見た解説
①
会社にとっての難題が、「見方を変える」事で「解決出来る課題」に変える事が出来る場合があります。
最初、この会社が悩まれていた課題は、「若年層の社員の確保(採用・定着)」という問題でした。そして、その前提には、「若手社員は必須である」という思い込みがありました。
今回、この会社にとって本当に必要なものを「見方を変えて」分析する事で、実は、「若手社員なしで業務を運営する」という事が、この会社にとっての答えとなり得る事が発見されました。そして、それは、「この会社を、より強くする」事にも繋がったのです。
このように、解決が難しいと感じる課題であっても、見方を変える事で、「思いもよらない解決方法」を見つける事が出来る場合があります。勿論、「見方を変える」という事は、決して簡単な事ではありませんし、従来とは違った「苦労」がある事も確かです。
②
しかし、事業が直面している課題に対して、単に「解決は無理」「大変な思いをし続けるしかない」と感じているだけでは、状況は改善しません。状況を改善させる為には、まず、現状を抜本的に解決する為の覚悟を決める必要があります。
そして、その上で、自社の課題を冷静に分析し、それを解決する為のアイデアを検討する必要があります。更に、それらのアイデアを実現させる為の具体的な道筋を描く必要があります。
ただし、日常業務に忙殺されている人材だけで、これらの作業を行う事は極めて難しいようです。
多くの事例からは、自社の業務を「離れた視点で、冷静に分析する」という事の難易度が特に高い事が推測されます。また、「課題を抜本的に解決する」と決断する機会を持てず、過去を引きずってしまうケースも多いようです。
自社の課題に苦しまれている場合には、是非、発想の転換を実現させられる人材を加え、解決策を模索し、抜本的な課題の解決を目指して頂きたいと思います。